ア-イシャに対する中傷について
3巻 P.659-667
ズフリーは伝えている
サイード・ビン・ムサイイブ、ウルワ・ビン・ズバイル・アルカマ・ビン・ワッカース及びウバイドッラー・ビン・アブドッラー・ビン・ウトバ・ビン・マスウードらは、預言者の妻アーイシャについて、中傷者らがしかるべきことを言って彼女を批難した時、アッラーが彼女を免罪されたハディースについて物語っている。
これらの口述者が、このハディースの一部をそれぞれ語ったのであるが、記憶力のよい者たちはより多くより明確に話してくれた。
私は、彼らが語ったこのハディースを忘れないよう記憶したが、幾つかの話は共通するものであった。
ともあれ、この話の内容は、次の通りである。
預言者の妻、アーイシャは語った。
アッラーのみ使いは、旅に出る時には、いつも妻たちの間に矢を投げ、その矢が当った者を伴って行かれた。
ある遠征に出発される時、み使いが私たちの間に矢を投げ、それがたまたま私に当ったので、私は、み使いと共に出発した。
それは、ヴェール(ヒジャーブ)に関する啓示が下された頃のことであった。
私は、ラクダの輿に乗って、目的地まで運ばれた。
(ともあれ)遠征を終え、帰還の途中、私たち一行のキャラバンがマディーナに近づいた時のことであるが、み使いは夜行することを命じられた。
出発の命令が下った時、私は、起いて外に出、軍隊のキャンプ場から離れた場所で用を足して後、元の場所に戻った。
その時、胸にさわってみて、私は(イエメンの)ザファール真珠で作ったネックレスをなくしたことに気づいた。
それで私は、用を足した場所に戻ってネックレスを捜しまわり、しばらくの間、そこにとどまった。
この間、ラクダに鞍をつけ私を運ぶために、輿を積んだ人々の一行は出発してしまった。
彼らは、私が輿の内にいるものとばかり思っていたのである。
当時の女は、体重が軽く、多く食べなかったために太らなかった。
そのため、一行は、私が若く軽量だったこともあって、ラクダの輿の重さに気づかなかったのである。
彼らは、ラクダをかりたてて出発した。
私は、その軍隊が、出発したあと、ネックレスをみつけ元の場所に戻ったのであるが、そこには、呼んでも誰も応える者はいなかった。
私は、私がいないことに気づいた人たちが、捜しに戻ってくると思い、その場所で待った。
そのような状態で待つうちに、眠気におそわれ、私は眠ってしまった。
サフワーン・ビン・ムアッタル・スラミー・ザクワーニーは、たまたま、休息していたために軍隊の出発に遅れていたが、夜半近くに歩いて私の傍を通りかかり、眠っている人がいるのに気づいた。
彼は、女性がヴェールを付けるよう命じられる以前に、私をみかけたことがあり、私が誰であるか、すぐに気づいたようであった。
私は、彼の「私たちは、アッラーのためにあり、アッラーの元に帰りゆくものであります」と唱える声で起き上り、着ていた外衣で顔を隠した。
アッラーに誓って!
彼は一言も私に話しかけず、私は、ただ、彼が「私たちはアッラーのためにあり云々」と唱える言葉以外、なにも彼の声を聞かなかった。
彼が、ラクダをひざまづかせ、前脚を押えたので、私はそれに乗った。
彼は、私を乗せたラクダの手綱をとって先に歩きだし、厳しい暑さのため休息中の軍隊に追いついた。
私を疑う者らに災いあらんことを!
彼らの中でもアブドッラー・ビン・ウバイー・ビン・サルールは、最も私を疑った人物であった。
マディーナに帰った後、私は一ヵ月ほど病気だった。
その頃、私を中傷する者らの言葉は、人々の間に広まっていたが、私は全くそのことに気づいていなかった。
しかし、私は、み使いが、私に対し、私が病気になる前ほどには、親切でなくなったことに気づいていた。
み使いは、私の処に聞いて「アッサラーム・アライクム!(平安を!)」といって挨拶したあと、どんな具合かとおたずねになるだけであった。
どうしてなのかと私は不思議に思ったが、悪い噂については知らなかった。
私は、まだ、十分には回復していなかったが、或る時外出し、その折、ウンム・ミスタフも一緒で、共々、マナースウの方に歩いて行った。
マナースウにはトイレがあり、当時ここへ、私たちは夜間だけ行ったものであった。
各家の近くに、トイレが設けられる前のことであり、この状態はイスラーム以前のアラブ人の生活と同じであった。
ともあれ、私は、ウンム・ミスタフと共に歩いて行った。
彼女は、アブー・ルフム・ビン・ムッタリブ・ビン・アブド・マナーフの娘であり、彼女の母は、アブー・バクル・シッディークの小母サフル・ビント・アーミルの娘である。
彼女には、ミスタフ・ビン・ウサーサ・ビン・アッバード・ビン・ムッタリブと言う息子もいる。
用を足した私とそのアブー・ルフムの娘は、家の方に向った。
その途中、突然、ウンム・ミスタフの被り布の中に虫のようななにかが飛び込んで来、そのため、彼女は、思わず「ミスタフに災いあれ!」と叫んだ。
私はこの言葉を聞きとがめ、「誰に対し災いあれ! と言ったのですか、バドルの戦いに参加した人を呪うのですか」と言った。
それに対し、彼女は、「おお、なんにも知らない女よ!
彼がなにを話しているか、知らないですか」と言った。
「彼はなにをいっているのですか」と私がたずねると、彼女は、私に中傷者たちが述べている言葉を話してくれた。
そのため私の病気は、一層悪化してしまった。
ともあれ家に戻ったところにみ使いがたずねてこられ、挨拶してから「どんな具合か」と言われた。
私は、この折「両親の家に行かせて下さい」と頼んだ。
私は両親に、その噂について確めたいと決心していた。
み使いが許してくれたので、私は、両親の家に戻り、母に対し「人々が、噂していることを知っていますか」とたずねた。
母は、この時「娘よ、心配することはありません。
もしも、夫から特に愛される美しい女がいれば、彼女の仲間の妻たちはあれこれ、(焼餅を焼いて)噂をするものです」と言った。
私は「アッラーを讃えます」といってから「人々が、それほど、噂しているのですか」と聞いた。
私は、その夜、朝まで泣き過し、一睡もせず、朝もまた、泣いていた。
このことに関する啓示が下るのが遅れていたので、み使いは、アリー・ビン・アブー・ターリブ及びウサーマ・ビン・サイドをよび、夫人たちと別れることに関し相談した。
この時、ウサーマ・ビン・サイドは、み使いの夫人たちに罪はないこと、み使い自身夫人たちに愛情を抱いていることなどを説き「み使い様、彼女らは、あなたの妻たちです。
私たちは、彼女らが、善良な人たちであることをよく知っています」と言った。
アリー・ビン・アブー・ターリブは「主はみ使いに対し、妻たちに関するいかなる不必要な重荷も課すはずはありません。
彼女と似たような女は多いのです。
もし、彼女の召使い女(バリーラ)に聞けば、彼女は正直に話すことでしょう」と言った。
それで、み使いは、バリーラを呼んで「アーイシャになにか不審な点はないか」とたずねた。
バリーラは「あなたを真理と共に送られた御方に誓って!
彼女には欠点は、なに一つありません。
ただ、彼女は若いだけに、一度だけ粉をこねているうちにうっかり眠ってしまい、小羊に食べられてしまったことがあるだけです」と答えた。
み使いは、説教壇(ミンバル)に登り、アブドッラー・ビン・ウバイー・ビン・サルールに謝罪するよう要求し、次のように言われた。
「あの男によってもたらされた私の家族を苦しめた汚名を誰がそそいでくれるのか。
アッラーに誓って!
私は、妻が敬虔な女であることを知っています。
また人々がこれに関連し、当の相手として噂している人は、私の知るかぎり誠実な人物であり、私の家には、私と一緒でないかぎり、入ろうともしない人であります」と言われた。
サウド・ビン・ムアーズ・アンサーリーはこの時、立ち上り次のように言った。
「み使い様、私が、あなたの名誉を守ります。
もし、彼がアウス族の者ならば、彼の首を切り落します。
もし、彼が、我々の同胞ハズラジュ族の者であれば、我々に命令して下さい。
それに従います。」
この時、サウド・ビン・ウハーグが立ち上った。
彼は、ハズラジュ族の部族長で、敬虔ではあったが、部族意識をまだ持っていた人物でもあった。
彼は、サウド・ビン・ムアーズに対し、「永遠の存在者アッラーに誓って!
お前は嘘偽を述べている!
お前には彼は殺せないし、彼を殺す力もない」と言った。
この時、またウサイド・ビン・フタイルは立ち上った。
彼は、サウド・ビン・ムアーズの従兄であった。
彼は、サウド・ビン・ウハーグにむかい「永遠の存在者アッラーに誓って!
あなたは嘘をついている。
我々は、彼を必らず殺すであろう。
あなたは偽信者です。そのため偽信者たちをかばっているのだろう」と言った。
かくして、アウスとハズラジュの両部族の者たちは激昂し、ほとんど戦わんばかりの状態だった。
み使いは、説教壇に立ったまま、彼らに怒りを静めるよう説得し、静かにさせた。
(アーイシャはつづけて語った)
私は、一日中、泣き暮し、夜も同様であった。
次の夜も一睡もできなかった。
私の両親は、このように泣きつづけた果てには、心臓を痛めるのではないかと案じ、私の傍に座っていた。
このような時、アンサールのある女性が見舞いに来たが、私を見ると彼女も泣き出した。
こんな状態でいるところに、み使いがこられ、挨拶してから、私の傍にお座りになった。
このような噂が立ち、しかも、それを明らかにするアッラーのお言葉が、私に関し、啓示されてなかったため、この一ヵ月ほど、み使いが私の傍らにお座りになったことはなかった。
み使いは「アッラーの他に神はなく、ムハンマドはアッラーのみ使いである」とタシャッフドをお唱えになってから「要点をのべれば、アーイシャよ、この件に関しては、私は次のような結論に達している。
もし、お前が潔白であるならば、アッラーは、お前の名誉を回復し、潔白さを証明して下さるだろう。
もし、お前の方に偶発的な過失があったとしたなら、アッラーに許しを求めるがよい。
アッラーは、しもべが過失を告白すれば許して下さり、懺悔してアッラーにむかえばアッラーもその懺悔を受け入れ、慈悲を持ってその者に対処なされる」と言われた。
み使いが、こう言われた時、私の涙は渇ききり、一滴の涙も私の目にはなかった。
私は、父に向い「私に代ってみ使いに答えて下さい」と頼んだ。
父は「アッラーに誓って!
み使いに対し、私にはなんと申し上げてよいか、わかりません」と言った。
それで、私は、母に「私に代ってみ使いに答えて下さい」と頼んだ。
しかし、母もまた「アッラーに誓って!
私には、み使いに対し、なんと申し上げてよいのかわかりません」と答えた。
私は、当時、まだ年も若く、クルアーンをそれほど、度々、読んでいたわけではなかったが、次のように言った。
「アッラーに誓って!
あなたに、このことについて、いろいろとお聞きしたい。
あなたは心中では、それが事実であると思っておられるようにみえます。
それ故、もしも、私が、全く潔白です、アッラーはそれをご存知です、と言っても、あなたはお信じにはならないでしょう。
アッラーは、私が全く潔白であることをご存知であるのに、もし、私が、噂されているような過失を犯したとあなたに告白したとすれば、その場合、あなたはそれを事実と信じるでありましょう。
それ故、アッラーに誓って!
私には、どこにも選ぶべき道はありません。
預言者ユースフの父が「(私としては)耐え忍ぶのが美徳だ。あなた方が述べることについては、ただ、アッラーにお助けをお願いする。」(クルアーン第12章18節)と言った言葉を信ずる以外ありません」
こう述べた後、私は、ベッドに横たわり、顔を他の方にむけた。
アッラーに誓って!
私は、潔白であることを十分知っていたが、アッラーが天使ジブリールを通じ、私などのことで啓示を下さるとは期待していなかった。
そして、また、この件が、祈願の時唱えられる言葉として啓示されるほど重要なこととは、考えてもみなかった。
私はただ、アッラーが、み使いの睡眠中に、私の潔白を証する幻覚でもお示し下さればよいと願っていた。
み使いは、その座から動かず、私の家族の誰も外に出ていく者はいなかったが、この時、アッラーは、み使いに啓示をお授けになったのである。
み使いは、いつも啓示を受ける時のような圧迫感を感じだし、アッラーの言葉の重さ故に汗を流し始めた。
啓示が下る時には、み使いは、冬の季節でも、銀の玉のような汗を流されたのであった。
ともあれ、このような状態が終ったあと、み使いが笑いを浮べながら、私に最初に言われたのは、次の言葉であった。
「アーイシャよ、お前によい知らせがある。
アッラーはお前の潔白を証言された」。
私の母は、この時「起いてみ使いに感謝なさい」と言ったが、
私は「アッラーに誓って!
私は、み使いに感謝するためには起きません。
ただ、私の潔白を証言して、啓示を下さったアッラーを讃えるだけです」と言った。
(アーイシャはつづけて語った)
アッラーは、「本当に、この虚言を広めた者は、あなたがたの中の一団である。」(クルアーン第24章11節)
その他、10節にも及ぶ御言葉を、私の潔白に関し啓示なさった。
アブー・バクルは、ミスタフに対し彼が親族の一員で貧困であったため援助金を与えていたが、「アッラーに誓って、今後、彼にはなにも与えてやらない」と言った。
アーイシャは、その時アッラーが「あなたがたの中、恩恵を与えられ、裕福で能力ある者には、その親族者に喜捨しないと誓わせてはならない。」(クルアーン第24章22節)から「アッラーが、あなたがたを赦されることを望まないのか」(第24章22節)までの啓示を下されたのは、これに関連してのことである」と述べた。
ヒッバーン・ビン・ムーサーは上記の啓示に関し、アブドッラー・ビン・ムバーラクが、「これは、聖典の中で、最も希望を抱かせる啓示(の御言葉)である」と語ったと伝えている。
(ともあれ)アブー・バクルは「アッラーに誓って!
アッラーが私を許されることを願います。
私は、決して、彼に援助金を与えることを中止致しません」と述べ、ミスタフに対する資金援助をつづけることにした。
(アーイシャはつづけて語った)
アッラーのみ使いは、ジャフシュの娘で妻の一人ザイナブに、私たちについて彼女が知っていることや見たことをおたずねになった。
その時、彼女は「み使い様、私は、耳で直接聞いたり、目で直接見たりすること以外なにも申せません。
私が、知っているのは、彼女が、善良な人であると言うことだけです」と述べた。
預言者の妻たちの中で私と張り合ったのはこのザイナブだけであったが、アッラーは、彼女が誠実にふるまい偽りの申し立てをしないよう、彼女のためお計らいになったのである。
ただ、彼女の姉妹のハムナ・ビント・ジャフシュは、彼女とは反対に、中傷者たちの言葉をふれまわり、結果的には、その者たちと共々破滅してしまった。
ズフリーによる前記と同内容のハディースは、別にも幾つかの伝承者経路で伝えられるがそれぞれ、表現用語には多少の異同がみられる。
それらのうち、ウルワを口述者の一人とするハディースには「アーイシャは、ハッサーンが、彼女の前で批難されるのを嫌い、まことに、私の父の名誉、私の母の名誉、私の名誉は、全て、ムハンマド様の名誉を守ろうと願っていますと詩の中で述べたのは彼ですと常々語っていた」と記されている。
更に、ウルワは「アーイシャが『アッラーに誓って! 批難の矢をむけられた当の人物は“アッラーを讃えます。
私の生命を手にしておられる御方に誓って!
私は、かつて、いかなる女性のヴェールをも脱がせたことはありません”と述べたが、その後アッラーの殉教者として死んだ』と語った」と伝えている。
アーイシャは伝えている
知らない間に、私のことが問題となっていた頃、アッラーのみ使いは、説教のため立ち上り「アッラー以外に神はないことを証言します」と言ってタシャッフドを唱えてから、アッラーを讃え、それにふさわしい言葉を述べてアッラーを称讃なさった。
そして後、次のように言われた。
「要点を言えば、私の家族に対し嘘偽の申し立てをした者らをどうすべきか、助言をしてほしい。
アッラーに誓って!
私は私の家族の誰にも、なんらの過失があったとは思わない。
また、嘘偽の申し立てによって批難を受けた人物について言えば、私は、彼になんらの過失があるとは思わない。
彼は、私が一緒でないかぎり、私の家に入ろうともしない人物である。
私が旅に出て不在の時には、彼もまた私と共に旅して不在となる人物である」
以下の話も、前記のハディースと多少異っている。
「アッラーのみ使いは、私の家に聞いて召使い女に私に関して質問したが、それに対し彼女は“アッラーに誓って!
彼女には、批難に価するなんらの過失もありません。
ただ、強いてあると言えば、彼女がいねむりしたため羊が入って来て、練り粉を全部食べてしまったことぐらいのものです”と答えた」
「教友たちの或る者は、彼女を批難して、“アッラーのみ使いに事実を正直に話しなさい”と言い、あれこれと問題になっていることを指摘した。
アーイシャは、“アッラーを讃えます!”と言ってから“アッラーに誓って!
純金について宝石商がよく知っているように、私も自分のことについては、十分知っています”と言った。
またこの件に関し批難されていることを知った当の人物(サフワーン)は、“アッラーを讃えます。
アッラーに誓って!
私は、いかなる女性のヴェールも脱がせたことはありません”と語った。
アーイシャは、この人物について“彼は、アッラーのため殉教者として死んだ”と語った」
このハディースには、次の言葉も付加されている。
嘘偽の申し立てをした人々は、ミスタフとハムナ及びハッサーンなどである。
偽善者アブドッラー・ビン・ウバ言いに関して言えば、彼は、偽りの情報を集めるため努力し、それを世間にまき散らした男であり、噂の捏造者であった。
ジャフシュの娘ハムナも同様であった。