ウマルの美徳
3巻 P.386-392
イブン・アッバースは次のように伝えている。
ウマル・ビン・ハッターブが遺体台の上に置かれたとき、人々が彼をとりまき、台が持ち上げられる前に彼のために祈り、彼を讃え、彼のために礼拝を行った。
そのとき私は彼らと一緒にいたが何も私の注意を引くようなことはなかった。
ただ後ろから私の肩を引っぱる者がいた。
振リ返って見るとそれはアリーであった。
彼はウマルにアッラーの慈悲があるように祈り、そして(ウマルの遺体に向って)こう言った。
「私がその者の望ましい行為故に、一緒にアッラーに会いたいと思う者をあなたは後に誰も残さなかった。
アッラーに誓って、アッラーがあなたをあなたの友人二人(預言者とアブー・バクル)と一緒になさいますことを確信しています。
というのは、私はアッラーの使徒が次のように言っているところをしばしば聞いています。
『私がやって来て、そしてそこヘアブー・バクルもウマルもやって来た。
また私が出て行き、そしてアブー・バクルもウマルもそこを出て行った。』
いずれにせよ私はアッラーがあなたをあなたの友人二人と一緒になさいますよう切に望みます。
またはそのように確信しています(注)。」
(注)このハディースによればアリーはアブー・バクルにも、またウマルにも何の怨念も抱いていなかったことになる
前記のハディースがウマル・ビン・サイードによって別の伝承者経路を経て伝えられている。
アブー・サイード・フドリーはアッラーの使徒の言葉として次のように伝えている
私が寝ているとき夢の中で人々が現われてきたところを見たが、彼らはシャツを着ていた。
そのうちの一部の者は胸部まであるシャツをつけ、他の一部はそれ以上に長いシャツをまとっていた。
そこにウマル・ビン・ハッターブがシャツを引きずりながら(注)通りかかった。
さてこの話しを聞いた人々には「アッラーの使徒よ、あなたはそれをどのように解釈しますか?」と尋ねた。
すると彼はこう答えた。
それは宗教である(つまり信仰の強さを示している意)。
(注)イスラームの夢解きによればシャツは宗教を意味し、引きずっていたことは吉兆を意味するとされている
アブドッラー・ビン・ウマル・ビン・ハッターブはアッラーの使徒の言葉としてこう伝えている
私が眠っているとき夢の中でミルクの入ったカップが持ち込まれるところを見た。
そこで私がそれを飲むと爪の先まで新鮮さを感じました。
それから残りをウマル・ビン・ハッターブに与えた。
それを聞いた人々は「アッラーの使徒よ、あなたはそれをどのように解釈しますか?」と尋ねた。
すると預言者は「それ(ミルク)は知識(注)である」と答えた。
(注)夢の中のミルクは宗教的な知識の意である。
なぜならそれは人の魂に栄養を与えるからであるとイスラームでは考えているからである
前記のハディースはユーヌスによって別の伝承者経路を経て伝えられている。
アブー・フライラはアッラーの使徒の言葉として次のように伝えている
私は眠っているとき、夢の中で井戸のそばにいる私を見た。
そこには(皮製の)バケツが(滑車にとりつけて)あった。
アッラーが望むままに私はそこから水を汲んだ。
それからイブン・アブー・クハーファ(アブー・バクルの別名)がそれを取り、それでバケツ一杯かまたは二杯の水を汲み上げた。
ところで彼の汲み上げには弱さが見られたが、だがアッラーよ彼を赦したまえ。
それからそのバケツが犬きいものにかわった。
そしてイブン・ハッターブ(ウマル)がそれをとり、汲み上げたのだが私はウマル・ビン・ハッターブのように水汲みする豪の者を見たことがない。
(彼が大量の水を汲み出したので)それで人々はラクダに水をやり、水場の近くで休息をとらせた(注)。
(注)このハディースは水によって象徴される初期イスラームのイスラーム共同体の発展を暗示している。
即ちアブー・バクルが一杯か二杯の水汲みをしたとは彼の治世が短かかった.ことを示し、また彼の汲み上げか弱かったことはイスラーム共同体の基盤が未だ弱く小さかったことを暗示している。
またウマルの汲み上げの力強さは彼の治世におけるイスラーム帝国の出現と大発展を暗示しているといった具合である
同様のハディースがユーヌスによって別の伝承者経路を経て伝えられている。
アブー・フライラは、アッラーの使徒の言葉として次のように伝えている
わたしはイブン・アブー・クファーハ(アブー・バクル)が水を汲むところを見た。
以下は前記ハディースと同様である。
アブー・フライラはアッラーの使徒の言葉として次のように伝えている
私は眠っていたとき、夢の中で私が人々に水を飲ませるために私の水槽から水を汲み出している自分を見た。
そこヘアブー・バクルがやって来て、私を休ませるために私の手から(皮製の)バケツを取り、バケツニ杯の水を汲みあげた。
そして彼の汲みあげには弱さが見られた。
だがアッラーよ、彼を赦したまえ。
そこヘイブン・ハッターブ(ウマル)がやって来て、彼からそれを取り(水を汲みあげたが)私は水を汲むことで彼よりも強い男を見たことがない。
(彼が水を汲み出すと)それでもって人々の渇きをいやし去ったが、それでも水槽は溢れんばかリに満杯になっていた。
アブドッラー・ビン・ウマルはアッラーの使徒の言葉として次のように伝えている
私は自分が井戸で滑車の付いた(皮製の)バケツで水を汲んでいるところを夢で見せられた。
一杯または二杯の水を汲みあげた。
そのとき彼は弱々しく水を汲み上げた。
アッラーよ、どうか彼をお赦し下さい。
それからウマルがやって来て水を求めた。
そのときバケツが大きいバケツに変ったが、私は彼のような豪の者を見たことがありませんでした。
(彼が水を汲み出すと)人々は満足して(近くの)休息場所へと向った。
サーリム・ビン・アブドッラーは父からの伝聞としてアッラーの使徒の夢についてアブー・バクルやウマル・ビン・ハッターブについてのアッラーの使徒の夢について前記と同様のハディースを伝えている。
ジャービルは預言者の言葉として次のように伝えている
(夢で)私が天国に入り、そこで私はある館または城を見た。
私は「これは誰のものですか?」と尋ねた。
すると彼ら(天使達)は「それはウマルのものです」と答えた。
そして彼(預言者)は(ウマルに向って)「私は、そのときそこに入りたく思いました。
しかし私はあなたの嫉妬を考えました」と言った。
するとウマルはそれを聞き、涙を流して次のように言った。
「アッラーの使徒よ、私があなたに関して嫉妬することができましょうか?」
前記のハディースはジャービルによって別の伝承者経路を経て伝えられている。
アブー・フライラはアッラーの使徒の言葉として次のように伝えている
私は眠っているとき、夢の中で天国にいる自分を見た。
そこで私はある城のそばで一人の女性がウドゥー(清浄行為)をしているところを見ました。
そこで私は「これは誰のものですか?」と尋ねました。
すると彼ら(天使達)は「それはウマルのものです」と答えた。
しかし私はウマルの嫉妬を考えましたのでそれに背を向けてその場を立ち去リました。
ここでアブー・フライラはさらにつづけて次のように伝えている。
するとウマルは涙を流した。
そのとき私達はその場にアッラーの使徒と一緒にいました。
それからウマルはこう言った。
「あなたは私の父を身代りにしてもおしくないお方です。
アッラーの使徒よ。
私があなたに関して嫉妬することができましょうか?」
前記と同様のハディースがイブン・シハーブによって別の伝承者経路を経て伝えられている。
サアド・ビン・アブー・ワッカースは次のように伝えている
ウマルがアッラーの使徒に訪問の許しを請うた。
そのとき彼のところにはクライシュの女性達がいて、彼女達は彼(預言者)よりも声高に(注)彼と話し、また彼に多くの質問を浴びせていた。
そしてウマルが許しを求めたとき彼女達は立ち上がり、急いでカーテンの後ろに隠れた。
そのときアッラーの使徒は笑いながら、ウマルに入室を許可した。
そこでウマルはそれを見てこう言った。
「アッラーがあなたを生涯笑わせますように。
アッラーの使徒よ。」
するとアッラーの使徒は「私は私のところにいる女性達に驚きました。
それというのも彼女達はあなたの声を聞くと急いでカーテンの後ろに隠れました」と言った。
そこでウマルは「アッラーの使徒よ。
彼女達はあなたを恐れて然るべきです」と言いながらさらに(女性達に向って)こう言った。
「お前達自ら仇なす者よ。
お前達は私を恐れてアッラーの使徒を恐れないのか?」
すると彼女達は「はい、あなたはアッラーの使徒よりも粗野で荒っぽい人です」と答えた。
そこでアッラーの使徒は次のように言った。
私の魂を手中におさめているお方に誓って、もし悪魔が通りであなたに出会ったならばそれ(悪魔)は(あなたを恐れて)別の通りを探すでしょう。
(注)クルアーン第49章2節には信徒たるもの預言者を前にして彼の声よりも声高に話してはならぬとある。
つまりこのハディースは前記の啓示が下される前のことと思われる
アブー・フライラは次のように伝えている
ウマル・ビン・ハッターブがアッラーの使徒の所へやって来た。
その時彼のところには女性がいてアッラーの使徒よりも声高に話していた。
そしてウマルが許しを求めたとき、彼女達は力ーテンの後ろに急いで隠れた。
以下は前記と同じハディースを伝えた。
アーイシャは預言者の言葉として次のように伝えている
あなた達以前の時代の人々の中には霊感を与えられた人達(ムハッダス)がいた。
もし私のウンマ(信仰共同体)に彼らの中の一人がいるとしたならば、それはウマル・ビン・ハッターブである。
ところで伝承者のイブン・ワハブは次のような解説を加えている。
ムハッダスとはムルハム(霊感を与えられた者)のことである。
前記のハディースはサアド・ビン・イブラヒームによって別の伝承者経路を経て伝えられている。
イブン・ウマルはウマルの言葉として次のように伝えている。
私は三つの事柄で我が主と一致しました(注1)。
それはマカーム・イブラヒーム(アブラハムのお立ち所)の場合(注2)と女性のべールの場合(注3)とバドルの戦いの人質達の場合(注4)です。
(注1)つまりさまざまな局面でウマルの個人的見解がアッラーの意図する所と一致してウマルの見解を支持する啓示がしばしば下されたという意味である。
ここでは三つだけが示されているが、実際には50例を数えると言われている
(注2)カーバ神殿の境内にある場所であるがウマルはここをムスリムの礼拝の中心場所とするように預言者に助言した。
マディーナに移ってからしばらくの間ムスリムはエルサレム(北)に向って礼拝していたが、その後啓示がありカーバ神殿(南))に向けて礼拝することを命ぜられた
(注3)ウマルはかねてより女性(特に預言者の身内の女性)はベールを付けないで外出すべきではないと主張していた。
そして預言者はこの件に関しては消極的であったが、まもなくべールに関する啓示が下された
(注4)バドルの戦いの敵の捕虜の扱いについてはウマルは敵対する異教徒として殺すべきとする強硬論を唱えアブー・バクルは同じクライシュ族の仲間として身代金と引換えに釈放すべしとする人情論の立場をとった。
預言者はアブー・バクルの意見に傾き実際にはそのような措置がとられた。
その後、(預言者たるもの敵に妥協してはならぬとする)啓示が下されてウマルの見解が正しかったことが証明された(第8章67節)
イブン・ウマルは次のように伝えている
アブドッラー・ビン・ウバイユ・ビン・サルール(注)が亡くなったとき彼の息子のアブドッラー・ビン・アブドッラーがアッラーの使徒のところにやって来て彼の父の遣体を包むために預言者のガウンを彼に与えてくれるようにと頼んだ。
それで預言者は彼にそれを与えた。
それから彼(アブドッラー)は父のために礼拝をしてくれるよう(冥福を祈ってくれるよう)に頼んだ。
そこでアッラーの使徒は礼拝をするために立ち上がった。
そのときウマルが立ち上がり、アッラーの使徒の服をつかんでこう言った。
「アッラーの使徒よ、アッラーは彼のために礼拝をすることを禁じたというのにあなたは彼のために礼拝をするのですか?」
そこでアッラーの使徒は「アッラーは次のように言って私に選択をお与え下さった」と.言った。
「汝が彼らのためにお赦しを請おうともまた請わなくとも(同じことだ)。
たとえ汝が70回も彼らのためにお赦しを請うたとしても」(第9章80節)。
こうして預言者は「私はさらに70回つけ足しましょう」と言いながらさらに「そして彼(アブドッラー・ビン・ウバイユ)はまことに似非信者であった。」と言った。
かくしてアッラーの使徒は彼のために礼拝をした。
そのときアッラーは次のような啓示を下した。
「彼らのうちの誰が死んでも、汝は決して彼のために葬儀の礼拝を捧げてはならない。
またその者の墓に足を止めてはならない」(第9章84節)
(注)似非信者の頭目として知られた男だった
同様のハディースがウバイドッラーによって別の伝承者経路を経て伝えられている。
しかしここでは最後に次の一文が付け加えられている。
それで彼は彼らのための礼拝を止めた。