酒は禁じられている。
それは葡萄のジュース、乾燥したなつめ椰子の実、新鮮な果物、
乾し葡萄その他どのようなもので造られても、飲んで酔うものである
3巻 P.109-114
アリー・ビン・アブー・ターリブは伝えている
私はバドルの戦に参戦し、戦利品の中、老いた雌ラクダをアッラーのみ使いと分け合った。
アッラーのみ使いは私に老いた別の雌ラクダもお与え下さった。
ある日のこと、私はアンサールの一人の家の入口の側にその二頭のラクダを座らせた。
そのラクダには売るためのイズヒル(芳香のある植物)が積んであった。
その時私と一緒にカイヌカーウ族(マディーナに在ったユダヤの一部族)の金細工師がいたが、それは私が(彼を通じてイズヒルを売り)その代金をファーティマとの結婚費用に役立てようとしたからであった。
折リしも、ハムザ・ビン・アブドル・ムッタリブが歌女に歌をうたわせ、その家で酒を飲んでいた。
その女は「ハムザ様、お立ちになってあの太った雌ラクダを屠ってちょうだい」と言った。
ハムザは剣を手にしてそれに突進し、その二頭の背のこぶを切断し、そしてなおそれの腹を切り開いて肝臓を取り出した。
私(ムスリム)はイブン・シハーブに「彼はこぶから何か取り出したのですか」と尋ねた。
彼は「二頭のこぶを切り取って持ち去ったのだ」と言った。
それからイブン・シハーブはアリーが(次のように)話したと言った。
(すなわち)私は衝撃的な光景を目の当りにした。
それで預言者の所に行った。
そこにはザイド・ビン・ハーリサが居合わせた。
私は例の出来事をその御方に告げた。
するとみ使いもザイドも一緒にそこを出た。
私もその御方に従って急いだ。
み使いはハムザの所に入って行かれ彼を叱責された。
するとハムザは目をつり上げて「お前達は私の親父の奴隷に過ぎぬではないか(注)」と言った。
アッラーは(酔漢の暴言に嫌悪され)踵を返されて彼等から離れられた。
(注)ハムザ・ビン・アブドル・ムッタリブは預言者やアリーのおじで勇猛の士でありイスラームのために戦った人物として知られている。
だが酒を飲むとハディースにあるように手におえぬ人物に一変した。
彼はバドルの戦で活躍し、ウワドの戦(628)で戦死した。
このハディースに見るような言葉は、預言者の父アブドッラーもアリーの父アブー・ターリブも、彼の父アブドル・ムッタリブには奴隷のように従順であったからであるとされる
前のハディースは別の伝承者経路を経ても伝られている。
フサイン・ビン・アリーは(父)アリーが(次のように)話したと伝えている
私はバドルの戦での戦利品の中より老いた雌ラクダの分配にあずかった。
アッラーのみ使いはその日(アッラーやそのみ使いのために保有される)五分の一の中より更に一頭の老いた雌ラクダを下された。
ところで、私がアッラーのみ使いの御息女ファーティマと家庭を持つことを望んだ時、私はカイヌカーウ族の金細工師を説き伏せて私との同行を約束してもらった。
それはわれわれがイズヒルを運んで金細工師達に売リ、その代金を結婚費用に役立てようと願ったからである。
私がその二頭のラクダに荷鞍、わら袋、ロープ等を積んでいる間、その二頭は一人のアンサールの家の側に座っていた。
私は種々、必要なものを集めるのに奔走した。
そしてそのラクダの所に戻って見るとどうであろう。
私の二頭のらくだのこぶは切断され、腹部は切り開かれて肝臓は奪われているではないか。
私はその二頭の姿を見た時、悲しみで涙が止まらなかった。
私は「これをやったのは誰か」と言った。
人々は「それをしたのはハムザ・ビン・アブドル・ムッタリブだ」と言った。
その時彼はその家で歌女に歌をうたわせ、アンサールの飲み友達の間で泥酔していたのである。
歌女は歌の中で「ハムザ様、お立ちになってあの太った雌らくだを屠ってちょうだい」と言った。
するとハムザは剣を手にして立ち上がり、二頭のラクダのこぶを切リ落し、腹部を切り開いて肝臓を取リ出したのであった。
私はアッラーのみ使いの所に飛んで行った。
そこにはザイド・ビン.ハーリサが居合わせた。
アッラーのみ使いは私の顔色を御覧になり、私に何か問題があるということをお知りになり「どうしたのか」と申された。
私は「アッラーのみ使いよ、私は今日のような(不幸な日を)見たことがありません。
ハムザが私の二頭の雌ラクダを襲ってそのこぶを切り落し、腹を切り開きました。
彼は今、飲み友達と一緒にある家に居ります」と言った。
アッラーのみ使いは外套を求めて羽織られた。
そして急いでお歩きになった。
私とザイド・ビン・ハーリサは後に従った。
ハムザが居る家の入口に来るとその御方は中に入る許しを求められた。
人々はそれを聞き入れた。
見ればどうであろう。
そこで人々は酒を飲んで気炎を上げているではないか。
アッラーのみ使いがハムザの行為を叱責されると、彼は目を赤くし、アッラーのみ使いをじっと見つめた。
それから彼はその御方の両膝に視線を下ろし、再び視線を上げて腰を凝視し、更に視線を上げてその御方の顔をじっと見て「お前達は私の親父の奴隷に過ぎぬではないか」と言った。
アッラーのみ使いは彼が泥酔していることをお知リになり、腫を返してその家を出られた。
われわれもまた、その御方に従ってそこを出た。
このハディースは他にも、別の伝承者経路を経て伝えられている。
アナス・ビン・マーリクは伝えている
酒が禁じられた日、私はアブー・タルハの家で人々のための酌人をしていた。
彼等の飲み物といえば必ず乾したなつめ椰子の実、あるいは新鮮ななつめ椰子の実から造った酒であった。
折りしも大きな声で何かを告げる声があった。
彼(アブー・タルハ)は私に「出て(何を告げているのか)確かめよ」と言った。
私が外に出て見るとその告げ人は「聞くがよいっ、酒は禁じられましたぞっ」と叫んでいる。
伝承者は「酒はマディーナの道から道に流れて行った」と伝えている。
アブー・タルハは私に「出て酒を流せ」と言った。
それで私はそれを流した。
人々は(またある人々は)「誰々は酒を飲んで殺された。
誰々もそのために殺された」と言った。
(伝承者の一人は「私はその話がアナスのハディースからかどうかは分らない」と言った)
その時至高偉大なるアッラーは「信仰して善行に勤む者は(既に)飲んだものに就いて罪はない。彼等が主を畏れ信仰して善行に励む時は…」(クルアーン第5章93節)の啓示を下された。
アブドル・アズィーズ・ビン・スハイブは伝えている
人々はアナス・ビン・マーリクにファディーフ(なつめ椰子の実から造った酒)について尋ねた。
すると彼は(次のように)語った。
われわれにはあなた方がファディーフと呼んでいる酒以外には無かった。
私はわれわれの家で、アブー・タルハ、アブー・アイユーブその他の教友達にそれをつぐ仕事をしていた。
その時ある人物が訪れて「あなた方の所にそのニュースは伝わったか」と言った。
われわれは「いいえ」と言った。
彼は「まこと、酒は禁じられた」と言った。
するとアブー・タルハは「アナスよ、これらの大きな壼にあるものを流せ」と言った。
伝承者は「その人物がそのニュースを伝えた後、彼等がそれに逆戻りすることはなかったし、それを求めることもなかった」と言った。
アナス・ビン・マーリクは伝えている
私は私の父方の兄弟の住む地区で人々にファディーフをつぐ仕事をしていた。
当時私はそこの人々の中では最年少であった。
そこにある人物が訪れて「まこと、酒は禁じられた」と言った。
すると人々は「アナス、それを流せ」と言った。
私はそれを流した。
彼(伝承者の一人スライマーン・タイミー)は「私はアナスに『それはどういうものですか』と尋ねた。
彼は『それは新鮮なもの、または良く熟れたなつめ椰子の実で造られた酒です』と答えた」と言った。
アブー・バクル・ビン・アナスは「それは当時、彼等が飲んでいた酒である」と言った。
スライマーンは「アナス・ビン・マーリクから話を聞いた者が私に『アナスもそのように言った』と話した」と述べた。
アナスは伝えている
私はその集落で彼等に酒をつぐ仕事をしていた。
この後のハディースは前述と同様である。
しかしその中には次のような相違も見られる。
(すなわち)アブー・バクル・ビン・アナスは「住時、それは彼等が飲んでいた酒である。
アナスは現にそれを見ている。
また、アナスはそれを否定しなかった」と言った。
ムウタミルは彼の父を根拠として(次のように)伝えた。
父と一緒にいたある者が父に「私はアナスが『それは当時、彼等が飲んでいた酒であった』と言うのを聞いた」と話した。
アナス・ビン・マーリクは伝えている
私はアンサールの中のアブー・タルハ、アブー・ドジャーナ、そしてムアーズ・ビン・ジャバル等に酒をついでいた。
その時われわれの所に入って来た者かあって、「新しいニュースがある。
それは酒禁制の啓示が下ったことである」と言った。
それでその日、われわれは酒壷を覆した。
その酒は乾したなつめ椰子の実を混ぜて造ったものである。
カターダは(次のように)伝えている。
アナス・ビン・マーリクは「酒は禁止されたが、その当時人々に広く欽まれていた酒は乾したなつめ椰子と新鮮なそれとを混ぜて造ったものであった」と言った。
アナス・ビン・マーリクは伝えている
私はアブー・タルハ、アブー・ドジャーナ、そしてスハイル・ビン・バイダーウ等に、乾したなつめ椰子の実や新鮮なその実とを混ぜて造った酒の入っている水袋から、その酒をついでいた。
残余のハディースは前述と同様である。
アナス・ビン・マーリクは伝えている
アッラーのみ使いは乾したなつめ椰子の実や新鮮なその実を混ぜたものを時を置いて飲むことを禁止された。
それは酒が禁制となった頃、広く人々が飲んでいた酒であった。
アナス・ビン・マーリクは伝えている
私はアブー・ウバイダ・ビン・ジャッラーフ、アブー・タルハ、そしてウバイユ・ビン・カァブ等に熟したなつめ椰子の実あるいは乾したそれの実で造った飲み物をついでいた。
そこに訪間者があり「まこと、酒は禁止されました」と言った。
するとアブー・タルハは「アナスよ、その壷を壊すがよい」と言った。
私は石を刳り貫いて作った壷の所に行き、その下部を打った。するとそれは割れた。
アナス・ビン・マーリクは伝えている
アッラーはクルアーンの一節を啓示され、その中で酒を禁じられた。
住時、マディーナにあった酒はなつめ椰子の実から造ったものだけであった。