預言者の言葉「我ら(預言者)には通産相続人なし、我らが残したものはサダカ(慈善)とならん」について
2巻 P.793-798
アーイシャは次のように伝えている
アッラーの使徒が他界したとき彼の妻達はウスマーン・ビン・アッファーンをアブー・バクルのもとに送って預言者が彼女たちへ残した遺産について(アブー・バクルに)尋ねようとした。
そのときアーイシャは彼女達に次のようにいった。
アッラーの使徒は「我ら預言者達には遺産相続人はいない、我らが残したものはサダカ(慈善)とならん」と云いませんでしたか?
ウルワ・ビン・ズバイルはアーイシャを経て次のように伝えている
アッラーの使徒の娘ファーティマ(アリーの妻)はアッラーの使徒の遺産の中から彼女の相続分について尋ねるためにアブー・バクルに使いを出した。
その遺産はアッラーが彼の使徒にマディーナとファダクで与えたもの、また使徒がハイバルで得た五分の一税の残りからなっていた。
そこでアブー・バタルは次のように伝えた。
アッラーの使徒は「我ら預言者らには相続人はいない、我らが残したものはサダカ(慈善)とならん」といった。
ムハンマド様の家族はこの財産で生活するにせよ私はアッラーに誓ってアッラーの使徒の時代に行われていたサダカの慣行を少しでも変えるつもりはありません。
私はこれに関してまさにアッラーの使徒が行ったように行うつもりだ。
こうしてアブー・バクルはその中からファーティマに何がしかを渡すことさえ拒んだ。
それでファーティマはそのことでアブー・バクルに怒っていた。
彼女は彼との関係を絶ち、他界するまで彼と喋らなかった。
彼女はアッラーの使徒の死後六ヵ月間生きていたが彼女が他界したとき彼女の夫アリー・ビン・アブー・ターリブは夜間に彼女の遺体を埋葬した。
そして彼は彼女の他界についてアブー・バクルに知らせることなく自ら彼女のために葬礼礼拝をとり行った。
アリーは彼女の存命中、人々から注目され、敬意を払われていたが彼女が他界すると彼は人々の敬意が疎遠になるのを感じた。
それで彼はアブー・バクルに和解を求めカリフとしての忠誠を彼に誓うことを申し出た。
実際彼はここ数ヵ月の間だがカリフへの忠誠の誓いを行っていなかった。
それで彼はアブー・バクルのもとに人を使わして一人で彼(アリー)を訪れることを要請した(ウマル・ビン・ハッターブが一緒についてくることを嫌ったので)。
けれどもウマルはアブー・バクルに「アッラーに誓ってあなた一人で彼らの所を訪れるべきではない」といった。
だがアブー・バクルはこう云って彼らの所を一人で訪問した。
彼らが一体私に何をすると云うのかね?
アッラーに誓って私は彼らのもとを訪れます。
こうしてアリー・ビン・ターリブはタシャッフド(証言儀礼の言葉)を唱えてからこういった。
アブー・バクルよ、私達は確かにあなたの高徳とアッラーがあなたに与えたものを認めております。
私達はアッラーがあなたにお与え下さった恩恵(カリフの地位)のことで決してあなたを妬んだりはしません。
しかしあなたは私達に相談することなしに(カリフに就任することを)一人で決めてしまいました。
私達はアッラーの使徒の親類であるゆえに相談される権利があるものと考えていました。
こうして彼(アリー)はアブー・バクルの目に涙が溢れるまで話しつづけた。
それからアブー・バクルは口を開きこう語った。
私の魂がその手中にあるお方(アッラー)に誓ってアッラーの使徒の親族は私にとって自分の親類よりももっと大切です。
ところで私とあなた達の間で起きたこの財産についての争いに関して云えば私はそれについて正しい道をそらしたつもりはない。
また私はアッラーの使徒が行ったことをことごとくその通りに忠実に実行し一度もそれを無視したことはない。
するとアリ-はアブー・バクルにこういった。
私のあなたへのカリフ承認の誓約の期日は今日のアシーヤ(午後)にしましょう。
さてアブー・バクルはズフル(昼)の礼拝を済ませた後に、説教台に上りタシャッフド(証言儀礼)を行いアリーの近況と彼の誓約承認の延期及び彼が申し出たその理由などを述べた。
その後彼(アブー・バクル)はアッラーに許しを求めて祈った。
そしてアリーもまた同じくタシャッフドを行い、アブー・バクルの正しさを称揚した。
そして彼(アリー)は彼の行為がアブー・バクルに対する嫉妬やアッラーが彼(アブー・バクル)に特に授けた地位を否認するためではないと云い、さらに次のように言葉をつづけた。
そうではなく私達はそのことに関して何か果すべき役割があると考えていました。
だがそれは私達に知らされることなく決められてしまいました。
それ故にそのことが私達を不愉快にさせたのです。
するとムスリム達は彼のこの説明を聞いて喜び「あなたは正しいことをしました」といった。
かくてアリーが適切な行動をとった(カリフの誓約を承認しそれに従ったこと)とき、ムスリム達はアリーに親愛の情を持つに到った。
アーイシャは次のように伝えている
ファーティマとアッバースがアブー・バクルの所にアッラーの使徒の二人への遺産を求めてやって来た。
その時二人はファダクの彼(預言者)の土地とハイバルでの彼の割当分を求めた。
それでアブー・バクルは二人に次のようにいった。
「私はアッラーの使徒が次のように云っている言葉を聞いた」といって前記のハディースとほぼ同じ意味のハディースを引用した。
しかしそれはここでは次のような追加表現が加えられている。
それからアリーは立ち上がり、アブー・バクルを称揚し、彼の優秀さを述べまた彼が早々とイスラームに帰依したこと(注)を述べた。
それからアブー・バクルのもとに進み出て彼をカリフとして承認する忠誠の誓いを立てた。
このとき人々はアリーの方を向き、「あなたは正しく、良い行いをしました」といった。
かくしてアリーが適切な行動をとったとき人々は彼に親愛の情を持った。
(注)アブー・バクルは預言者の妻ハディージャについで早くイスラームに帰依した。
つまり成人男子として最も早くイスラームに入信した
ウルワ・ビン・ズバイルは預言者の妻アーイシャからの伝聞として次のように伝えている
アッラーの使徒の死後、使徒の娘ファーティマはアッラーが彼の使徒に授けたもののうち彼(預言者)が後に残したものの中から彼女の遺産分を配分するようアブー・バクルに求めてきた。
するとアブー・バクルは彼女に次のようにいった。
アッラーの使徒は「我ら預言者には遺産相続人はいない、我らが残したものはサダカ(慈善の基本財)となる」と云いました。
伝承者はつづいてこう語っている。その後彼女(ファーティマ)はアッラーの使徒の死後六ヵ月間生きていた。
その間ファーティマはアブー・バクルにハイバルとファダクからあがる持分とマディーナにある彼(預言者)の慈善の基本財とからなるアッラーの使徒が残したものの内から彼女の遺産配分をいつも要求していました。
ところがアブー・バクルは彼女にそのことを断ってこういった。
私はアッラーの使徒が行ったことを決してないがしろにしない。
それどころか私はそれをそっくりそのままその通りに行ってきた。
もし私が彼の指示の一部でも放棄したならば私は正道からそれてしまうことになりそのことを私は恐れています。
マディーナにある彼(預言者)の慈善の基本財について云えばウマルがアリーとアッバースに渡しました。
しかしアリーがアッバースを制してそれを専有しています。
ハイバルとファダクの遺産について云えばウマルかそれを管理している。
だがそれは双方ともアッラーの使徒のサダカである。
それは双方とも彼(預言者)の双肩にかかっていた責任を果すためにかつまた彼が遭遇する緊急事態に対処するために使われていた。
そしてこの二つの管理は社会全体を管理する者の手にゆだねられていた。
ここで伝承者はこう付け加えている。
かくしてこの二つは今日までそのようにして管理されております。
アブー・フライラはアッラーの使徒が次のように語ったとして伝えている
私の相続人は、一ディーナールさえも(私の遺産の中から)受け取ることはできない。
私が残した遺産の中から私の妻達へ生活費と使用人の手当を支払った残りはサダカ(慈善基金)である。
前記と同様のハディースがアブー・ズィナードによって別の伝承者経路を経て伝えられている。
アブー・フライラは預言者が次のように語ったとして伝えている
我ら預言者達は遺産相続されることはない。
我らが残したものはサダカである。