夜の旅(イスラー)と昇天(ミイラージュ)について
1巻 P.122-134
アナス・ビン・マーリクによると、アッラーのみ使いはこういわれた
「私のブラーク(注1)が連れてこられた。
それは白色で胴体が長く、ろばよりは大きいがらばよりは小さく、それでいてそのひづめを視界の広さまで伸ばすことのできる動物であった。
私はそれに跨がり、エルサレムの聖寺院(バイトル・マクデス)まできた。
そして私は、預言者らが使う輪にブラークをつないでから、モスクに入り二ラカートの礼拝を行った。
そのあと、外に出たところ、天使ジブリールがぶどう酒入りの容器とミルク入りの容器をもってきたので、私はミルクを選んだ。
ジブリールはこれに関し『あなたは良いもの(注2)を選んだ』といった。
その後、彼は私を連れて天に昇り、天の門を開けるよう頼んだが、その折、『誰か』とたずねられると『ジブリールです』と答え、更に、『誰があなたと一緒ですか』と問われると、『ムハンマドです』と答えた。
更にまた『彼はアッラーの使徒であるか』と問われた時ジブリールは『その通りです』と答えた。
その後、天の門は私たちのため開かれたが、なんとそこには預言者アダムがおり、私を歓迎し私のため善かれと祈ってくれた。
その後私たちは、第二層の天界に昇った。
ジブリールはその門を開けるよう頼んだが、その折、『誰か』とたずねられると『ジブリールです』と答えた。
彼はまた『誰と一緒か』と問われ、『ムハンマドと一緒です』と答えた。
それに対し更に『彼は使徒の一人か』とも問われたが、『まことにその通りです』と答えた。
その後天の門は私たちのために開かれた。
そこには、母方の従兄弟に当るイーサー・ビン・マリヤム(マリヤの子イエス)とヤヒヤー・ビン・ザカリヤがおり、私を歓迎し私のため善かれと祈ってくれた。
それからジブリールは私を第三の天界に連れて昇った。
彼は、そこで門を開くよう頼んだ。
そして『誰か』といわれた時、『ジブリールです』と答え、『誰と一緒か』と問われた時、『ムハンマドです』と述べた。
更に『彼は使徒の一人か』とたずねられ、『その通りです』と答えた。
すると門は私たちのために開かれ、なんとそこには、世界の美の半分を与えられたといわれる美しい顔立ちの預言者ユースフがおり、私を歓迎し、私の幸福のため祈ってくれた。
その後、私たちは第四の天界に昇った。
そこでジブリールは門を開けるように頼んだ。
その折『誰か』と問われて『ジブリールです』と答え、また『誰と一緒か』とたずねられ、『ムハンマドと一緒です』と答えた。
更に『使徒の一人か』と問われた時には、『その通りです』と述べた。
私たちのため門が開かれたが、そこにはなんと預言者イドリースがおり、私を歓迎し、私の幸いを祈ってくれた。至高にして尊貴なるアッラーは、このイドリースについて「われは、イドリースを高い地位に挙げた」(クルアーン第19章57節)と啓示しておられる。
そのあと私たちは、第五の天界に昇った。
ジブリールは、ここでも門を開けるよう頼み、『誰か』と問われた時『ジブリールです』と答え、更に『誰と一緒か』との問いには『ムハンマドです』と述べ、また『ムハンマドは使徒の一人か』との質問には『使徒の一人です』と答えた。
門が私たちのために開かれた時、そこには預言者ハールーン(アーロン)がおり、私を歓迎し、私の幸いを祈ってくれた。
その後、私たちは、第六の天界に昇った。
ジブリールが門を開けるよう頼むと『誰か』と問われたが、それには『ジブリールです』と答えた。
更に『誰と一緒か』といわれた時、『ムハンマドです』と述べ、『使徒の一人か』とたずねられると『その通りです』と答えた。
すると門は私たちのために開かれ、そこには預言者ムーサー(モーゼ)がおり、私を歓迎し、私の幸いを祈ってくれた。
その後、ジブリールは私を連れて第七の天界に昇った。
ジブリールは門を開けるよう頼んだが、その折『誰か』といわれ『ジブリールです』と答えた。
『誰と一緒か』と聞かれた時、彼は『ムハンマドと一緒です』と答え、また『ムハンマドは使徒の一人か』とたずねられた時『その通りです』といった。
すると門が私たちのため開かれ、なんとそこには預言者イブラヒーム(アブラハム)がバイトル・マアムール(不断に詣でられる聖殿(注3))に背を寄りかからせながら座っていた。
そしてここではまた、毎日七万人の天使が、それぞれただ一度ずつの機会を与えられた巡拝のため門内に入ってゆく姿も見られた。
その後、私は『速く涯にあるシドラ木(シドラトル・ムンタハー(注4))』の処に案内されたが、その葉は象の耳に類似し、その実は土つぼのように大きかった。
この木がアッラーの命令によって花で覆われた時の美しさはアッラーの創造物の誰一人として讃え尽すことができないほど素晴らしいものである。
アッラーはこの折啓示を給わり、毎昼夜、50回の礼拝を義務とするよう私に命じられた。
その後、私がムーサー(モーゼ)の処に下りて行った時、彼はこうたずねた
『主はあなたのウンマ(信仰共同体)に何を命ぜられたのですか』
私が『50回の礼拝です』と答えると、
彼は『主の処に戻って礼拝の回数を減らして下さるようお願いしなさい。
なぜならあなたのウンマの者はその負担に耐えられないからです。
私自身イスラエルの民に試み彼らにそれを課したのですが、彼らはそのような重い負担に耐えきれなかったのです』
(アッラーのみ使いはいわれた)
それで私は主の許に戻り『我が主よ、私のウンマのため、負担をもっと軽くして下さい』と頼んだ。
その結果主は私のため五回分だけ礼拝を減らして下さった。
私がムーサーの処に下りて『主は私のため礼拝を五回分だけ減らして下さった』と話したところ、ムーサーはこういった。
『あなたのウンマは、その負担に耐えることはできないだろう。
それ故、主の許に戻り、もっと負担を軽くするようお願いしなさい』
それから私は幾度も、恩寵深く至高なる主とムーサーの間を行き戻り続けた。
主は最後に、こういわれた
『ムハンマドよ、毎日昼夜五回の礼拝が妥当であろう。
その毎回の礼拝を10倍に数えれば、日に50回の礼拝を行うことになろう。
一つの善行を志しながらそれを実行しなかった者に対しては、一つの善行印が記録される。
そしてもし彼がそれを実行した場合には彼のため10倍して記録されるのである。
また一方、一つの悪行を企図しながらそれを実行しなかった者に対しては、なにも記録されることはないし、それを実行したとしても、ただ一回の悪行とのみ記録されるだろう』
その後、私は下ってムーサーの処に行き、このことを彼に話した。
するとムーサーはまた『主の許に戻り、負担をもって軽くするようお願いしなさい』といった。
(これに関し、アッラーのみ使いは次のようにいわれた)
『私はすでに私自身が主に対し恥ずかしくなるほど、たびたび主の許に戻り負担を軽くするようお願いしたのです』」
(注1)ブラーク 天馬の一種。稲妻(バルク)と同類語てある点から動作の迅速なることか想像される
(注2)良いもの(フィトラ)自然性にかなったもの という意味
(注3)バイトル・マアムール(不断に詣でられる聖殿)クルアーン(第52章4節)にも記される。
創造主アッラーを讃えるため天国において無数の巡拝者が詣でる聖堂。
マッカのカーバ神殿の原型ともいわれ、それぞれが天と地にあってアッラーの唯一性のシンボル、巡礼の中心地とされている
(注4)シドラ木(シドラトル・ムンタハー)クルアーン(53章14節、16節。56章28節)にも天国の至福の象徴として記述されている。
原意は“だれも越えることのてきない涯にあるシドラの木”でその濃い緑蔭はしばしばアッラーの加護の深さにたとえられる。
“象の耳の如き葉”や“土つぼの如き実”は、神の知恵の広大無辺さの表象といわれる
アナス・ビン・マーリクによると、アッラーのみ使いはこういわれた
「天使たちが、私の処に来て、私をカーバ神殿近くのザムザム井戸に連れていった。
そこで、私の心臓は切り開かれ、ザムザムの聖水で洗浄された。
その後、私は元の場所に置き去りにされた」
アナス・ビン・マーリクはこう伝えている
天使ジブリールが仲間の少年たちと遊んでいたアッラーのみ使いの処にやってきた。
天使は彼をとらえ、地面に寝かせ胸部を切り裂いて心臓を取り出し、そこから血の塊を摘出して後「これはあなたの中に巣くっていた悪魔(シャイターン)の一部です」といった。
その後天使は、ザムザムの聖水の入った黄金製の水盤の中でそれを洗い清め、綴じ合わせてそれを元の場所に戻した。
一緒に遊んでいた仲間の子供たちは、彼の育ての母、つまり、乳母の処に駈けて行き、「ムハンマドが殺された」と叫んだ。
それで人々は急いで彼の処まで行ってみた。
しかし彼は無事でただ顔色のみがいつもと変っているだけだった。
これに関連しアナスは「私自身、ムハンマド様の胸部に、その時の縫い痕を見ました」と語っている。
マーリク・ビン・アナスは、カーバ神殿のある聖モスクからのアッラーのみ使いの夜の旅(イスラー)についてこう伝えている
三人の天使が、カーバのモスクにいるアッラーのみ使いの処にやってきたが、夜の旅と昇天に関する命令が啓示される前まで、彼はその聖なるモスクで眠っておられた。
以下のハディースは前記と同内容であるが、話の順序その他に多少の異同がみられる。
アナス・ビン・マーリクは、アブー・ザッルがアッラーのみ使いの次の言葉をいつも語っていたと伝えている
「私がマッカにいた時、私の家の屋根が裂けて、ジブリールがそこから下りて来た。
そして私の心臓を切り開いてザムザムの水で洗い清めた。
その後知恵と信仰を満たした金色の水盤を持ってきて、それを私の胸の中に注ぎ込んで後、胸を閉じ合せた。
それから、私の手をとって連れ出し天に昇った。
私たちが最も下層の天(サマーウル・ドニア)に着いた時、ジブリ-ルはそこの番人に『開けよ』といった。
そして番人が『どなたですか』と問うた時『ジブリ-ルです』と答えた。
番人が更に『誰かがあなたと一緒ですか』と問うと『はい。ムハンマドが私と一緒です』と答えた。
番人は『ムハンマドは使徒の一人ですか』ともたずねた。
ジブリ-ルはこれに対し『その通りです』と返事した。
その後、番人は門を開いてくれた。
私たちが最下層の天界に入った時、私は一人の人物がそこに座っているのを見た。
その右側、左側には、それぞれ一団の人々がひかえていたが、この人物は右側の人々を見ては笑いかけ、左側の人々を見ては涙を流していた。
その人物は私にむかって『敬虔なる預言者よ、正義の士よ、よくぞこられた』といった。
私がジブリールに『あの方は誰ですか』とたずねたところ、『彼は預言者アダムです。
彼の右側、左側の人々はいずれも彼の子孫の霊魂で、右側の人々は天国の住人、左側の人々は地獄の住人なのです。
それ故、アダムは右側を見る時はほほえみかけ、左側を見る時には泣くのです』と語ってくれた。
それからジブリールは第二層の天界に私を連れて昇り、そこの番人に門を開けるよう頼んだ。
番人は第一天界の番人と同様の質問を繰り返した後、門を開けてくれた」
これに関連し、アナス・ビン・マーリクは、「アッラーのみ使いは天界で、アダム、イドリース、イエス、モーゼそしてアブラハムに会ったといわれたが、第一天界のアダムと第六天界のアブラハム以外にこれら預言者たちの住いの様子について何も語っておられない」と述べている。
(ともあれ)ジブリ-ルとアッラーのみ使いがイドリースの処を通った時、彼は「敬虔なる預言者よ、有徳の兄弟よ、よくぞこられた」といった。
アッラーのみ使いがそこを通りすぎてから「彼はどなたですか」とたずねると、ジブリールは「イドリースです」と教えてくれた。
アッラーのみ使いは更にこういわれた
「その後私はモーゼの処を通りすぎた。
彼は私にむかって『正義の預言者、有徳の兄弟よ、よくぞこられた』といった。
私はジブリールに『彼はどなたですか』とたずね、『モーゼです』と教えられた。
その後私はイエスの処を通った。
その後は『ようこそ! 正義の預言者、有徳の兄弟よ』といった。
私はジブリールに『あの方は誰ですか』とたずね、『マリヤの息子イエスです』と教えられた」
アッラーのみ使いは続けてこういわれた。
「その後私はアブラハムの処に行った。
後は私にむかい『ようこそ! 正義の預言者、有徳の兄弟よ』といった。
私が『彼はどなたですか』とたずねると『アブラハムです』とジブリールは教えてくれた」
これに関連しイブン・シハーブは、イブン・ハズムが、イブン・アッバース及びアブー・ハッバ・アンサーリーらから、たびたび聞いて彼に語ったハディースを、次のように伝えている。
アッラーのみ使いはいわれた
「このあとジブリールは私を連れてペンのきしる音の聞こえる(注1)ほど、高い処まで昇った」
イブン・ハズム及びアナス・ビン・マーリクによると、その後、アッラーのみ使いはこういわれた
「アッラーは、その折、私のウンマに対し日に五〇回の礼拝を義務としてお命じになった。
私がその命令を奉じ帰りにモーゼの処を通りかかった時、彼は私に『主はあなたの民人に何を命じたのですか』とたずねた。
それで私は『五〇回の礼拝が彼らに義務として課せられました』と答えた。
するとモーゼは『主の許に戻りなきい。なぜならあなたの民人はそのような負担に耐えることができないからです』といった。
それで私は、主の許に戻った。
主は先の命令の幾分かを免じて下さった。
それから、再び私はモーゼの処に行き、そのことを彼に話した。
しかし彼はまた『主の許に戻りなさい。あなたのウンマの人々は、それには耐え得ないでしょう』といった。
それで私は再び主の許に帰ったのであるが、その時主はこういわれた
『日に五回の礼拝を命じる。これは、五〇回の礼拝に相当する数である(注2)。私が一度口にした言葉は、変更されることはない』
私はその後またモーゼの処に行った。
モーゼはまた『主の許に戻りもっと負担を軽くするよう主にお願いしなさい』といったが、これに対し『私は、主に対し恥ずかしいのです』と述べた。
このあとジブリールは、私を誰も越せないほど遠くにあるシドラ木の処に連れて行った。
その木は私の知らない様々な色で覆われていた。
私はまた、天国に入ることを許されたが、そこには真珠のドームがあり、地面にはじゃこうが敷きつめられていた」
(注1)アッラーの命令を書き取る天使らのペンのきしる音が聞こえる処まで近づいた、という意味である
(注2)一回の善行(ここでは礼拝)は一〇倍に数えられ報償されることを示す
アナス・ビン・マーリクは、恐らく彼と同部族のマーリク・ビン・サアサアから聞いて次のように伝えている
アッラーの預言者はこういわれた。
「私は、カーバの神殿近くで夢うつつの状態でいた時、傍らで眠っていた二人、すなわちハムザ及びジャウファル以外の誰か三人目の人が、なにかを話しているのを聞きました。
その後この人物は私の処にきて、私を連れ出しました。
そしてザムザム聖水入りの黄金製水盤を私の処に運び、私の胸をしかじかの部分まで切り開いたのです」
これに関連しカターダは、この話を語った人に「しかじかの部分までとはどんな意味ですか」とたずねたところ、彼は「それはアッラーのみ使いの胸部の下まで切り開いたという意味です」と答えた、と伝えている。
(この後、預言者の言葉が続く)「私の心臓は取り出され、ザムザムの聖水で洗浄された後、元のところに戻されました。
これ以来、私の胸は信仰と知恵で満たされたのです。
その後私の処に、ブラークとよばれる白色の、ろばよりは大きくらばよりは小型の動物が連れて来られました。
その走り幅は果てしないほどの距離です。
ともあれ、私はそれに乗せられて出発し、最も地上に近い天界に到着したのです。
ジブリールはそこで門を開けるよう頼みました。
そして『誰か』とたずねられた時『ジブリールです』と答え、更に『誰と一緒か』と聞かれた時には『ムハンマドと一緒です』と答え、更にまた『彼は使徒の一人か』とも問われると、『そうです』と答えました。
それで門が私たちのために開かれ、『ようこそ! 到着された方々に神のご加護がありますように!』といわれたのです。
それから私たちは、アダムの処に行きました」
このハディースの後半をアナス・ビン・マーリクは次のように語った。
アッラーのみ使いはこういわれました
「第二の天界で、イエスとヤヒヤーに、また第三の天界でユースフに、第四の天界でイドリースに、第五の天界でハールーンに会ったのです。
それから私たちは天界の旅を続け、第六の天界に至ってモーゼの処に着き、彼に挨拶をしました。
彼は『ようこそ有徳の兄弟、正義の預言者よ』といって歓迎してくれました。
私がモーゼの傍を通りすぎた時、彼は泣きだし、それに対し『どうして泣くのか』という声が聞こえました。
この時モーゼは『主よ、あなた様が、私のあとに預言者として遣わしたこの若い人物の信奉者らは、私の信奉者たちよりも多く天国に入るでありましょう』と嘆いて訴えたのでした。
このあと、私たちは第七の天界まで昇り、アブラハムの処に至ったのです」
アナス・ビン・マーリクは、このハディースの中でアッラーの預言者は「四つの河がシドラ木の根元から流れているが、その中二つの河は、はっきりと見える河であり、他の二つの河は見えない河である」といわれた、と伝えている。
(ともあれ、アッラーの預言者は更に次のようにいわれた)
「私がジブリールに『これらの河は何ですか』とたずねると、彼は『二つの見えない河は天国にある河で、また、はっきり見える二つの河は、ナイル河とユーフラテス河なのです(注)』と答えてくれました。
このあと、バイトル・マアムール(巡拝者の絶えない聖殿)が私の目前に現われたのです。
私が『ジブリ-ルよ、これは何ですか』とたずねると、彼はこういいました
『これはバイトル・マアムールです。日に七万の天使が巡拝のためここに入ります。
そして彼らには出て行った後、再び入ることができない処です』
この後、二つの容器が私の処に運ばれて来ました。
一つにはぶどう酒が、他にはミルクが入っており、二つ共私の前に置かれました。
私はミルク入りを選んだが、それに対し『あなたはよい方を選んだ! アッラーはあなたを通じ、あなたのウンマを無理なく(自然の理にかなった方法で)導き給うことでしょう!』といわれました。
この後、日に五〇回の礼拝が私に義務として課せられたのでした」
アッラーの預言者は続けてこのハディースの残りの部分を最後までお話になりました。
(注)この両河にはさまれた地域がイスラームの中心領域である、という意味にも解釈されている
マーリク・ビン・サアサアによると、アッラーのみ使いは前述と同内容のハディースを語って後、以下の言葉を付け加えられた
「私の処に、知恵と信仰を満たした黄金の水盤が運ばれた。
それから、胸の上部から腹部下まで真直に切り開かれ、ザムザムの聖水で洗い清められて後、知恵と信仰が注ぎこまれた」
カターダによると、アブー・アーリヤは、預言者の従兄イブン・アッバースから聞いて、彼にこう語った
アッラーのみ使いは、夜の旅(イスラー)について話された時「預言者モーゼはシャヌーア部族の人々のように、背の高い方であり、また預言者イエスは中背でちぢれ毛の方であった」といわれた。
この折彼は地獄の番人マーリクや、ダッジャールについてもお話しになった。
アブー・アーリヤは伝えている
あなた方の預言者の伯父の息子イブン・アッバースは、私たちにアッラーのみ使いがこういわれたと語った
「私はその夜ムーサー・ビン・イムラーン(イムラーンの息子モーゼ)の処を通った。
彼はやや褐色で背が高く、シャヌーア部族の人々のように体格のよい人物だった。
私はマリヤの息子イエスにも会ったが、彼は中背で白皙の顔に赤味がかった色つやをし、頭はちぢれ毛であった。
私はアッラーが私に示されたもろもろのみしるしのなかで、地獄の番人マーリクや、終末期に現われる偽救世主のダッジャールをも見せてもらった」
この話に関連し、アブー・アーリヤは「アッラーのみ使いがモーゼに会われたことに疑う余地はありません」と述べ、またカターダも「アッラーの預言者は確かにモーゼにお会いになった」と語っている。
アブー・アーリヤは、イブン・アッバースから聞いてこう伝えている
アッラーのみ使いはアズラク谷を通った時「ここは、どの谷か」とおたずねになった。
人々が「アズラク谷(注1)です」と答えると、こういわれた
「私にはモーゼが大声でアッラーヘのタルビーヤ(注2)の祈りを唱えながら、山道を降りて来る姿があたかも目に見える思いがする」
それからみ使いはハルシャー(注3)山道に着いた。
み使いは「この山道は何というのか」とおたずねになり、彼らが「ハルシャーの山道です」と答えると、こういわれた「私にはマッターの息子ユーヌス(ヨナ)が骨格のよい赤色のめすらくだに乗り、ウールの外套を着、フルバ(なつめの木の繊維)で作った手綱を持ち、タルビーヤを唱える姿が目に見えるような気がする」
イブン・ハンバルのハディースによれば、フシャイムはフルバを、なつめの木の繊維であると説明している。
(注1)アズラク谷(ワーディ・アズラク)マッカからマディーナにむかって約一マイルほどの処にある谷。
アズラクという人物に因んで付けられたという
(注2)タルビーヤ(巡礼朗誦)「私はここにおります。アッラーよ、あなたは比肩するものもない唯一の御方です。御前に参りました。私はあなたに従います」と唱える
(注3)ハルシャー山 シリヤとマディーナの間、ジュファの近くにある山の名
アブー・アーリヤによると、イブン・アッバースはこう語った
私たちはアッラーのみ使いに従いマッカとマディーナの間を旅し、或る谷を通りかかった。
その折「これは何という谷か」とみ使いがいわれたので、人々は「アズラク谷です」と答えた。
み使いは「私にはモーゼが目に見える思いです」といわれて、モーゼの顔色や髪などについて(伝承者の一人ダウードがよく記憶できなかった事柄を)お話しになり、更に「モーゼは、指を両耳に当てて大声でアッラーに対してタルビーヤの祈りを唱えをがら、この谷を通って行った」といわれた。
私たちは更に旅して或る山道にさしかかった。
み使いが「これはどの山の道か」といわれたので、人々は「ハルシャー山、もしくは、リフト山です」と答えた。
するとみ使いは「私には、ヨナが羊毛の衣を着、赤いらくだに乗って通る姿が目前に見えるような気がする。らくだの背で彼は、なつめの木の皮から作った手綱を手にし、タルビーヤを唱えながらこの谷を通りすぎて行った」と話された。
ムジャーヒドはこう伝えている
私たちは、イブン・アッバースの処で、ダッジャールについて話し合った。
この折、ある人が「ダッジャールの両眼の間には、カーフィル(不信者)という言葉が書かれている」といった。
イブン・アッバースはこれに対し「私は、アッラーのみ使いからそれについてお聞きしたことはなかった。
しかし彼がこういわれたのを覚えている。
すなわち『アブラハムに関しては、あなた方の教友、つまりムハンマドその人を見ればよい(注)。
モーゼに関して言えば、彼はなつめの木の繊維で作った手綱を手にして、赤いらくだに乗ったやや褐色の顔付きの体格のよい人物である。
私にはその後が、谷を降りながらタルビーヤを唱える姿が目に見えるような思いがする』と」
(注)ムハンマドはアブラハムの生き写しであるという
ジャービルによると、アッラーのみ使いはこういわれた
「或る時、もろもろの預言者が私の前に現われた。
モーゼもその中におり、彼はあたかもシャヌーア部族の人々のように背が高かった。
私はマリヤの息子イエスを見たが、彼に最もよく似ているのは、ウルワ・ビン・マスウードであろうと思う。
私は、また、アブラハムを見たが、彼はあなた方の教友、すなわちムハンマド自身に最もよく似ていると思う。
私はジブリールをも見たが、彼に最もよく似た人物は、ディフヤ(イブン・ルムフによると、ディフヤ・ビン・ハリーファ)であると思う」
アブー・フライラによると、預言者はこういわれた
「夜の旅に連れ出された時、私は、モーゼに会った」
この後、預言者は次のようにお話しになった
「モーゼはあたかもシャヌーア部族の人々のように背が高く頭髪を長くした人物だった。私はまた、イエスにも会った」
こう語って預言者はイエスに関して「中背であたかも風呂から出てきたばかりのように赤味がかった顔つやの人物だった」と述べた。
預言者はこうもいわれた
「私はアブラハムを見たが、彼の子孫の中で私が彼に最もよく似ている」
預言者はまた、こうも語られた
「私の処に二つの容器が運ばれて来たが、その一つにはミルクが、他の一つにはぶどう酒が入っており、私はそのうちどれでも選ぶようにといわれた。
それ故私はミルク入りの容器を取り、それを飲んだ。
すると天使は『あなたはイスラームの教えに忠順である(もしくは、教えの真髄を会得している)もしあなたがぶどう酒を選んだならば、あなたのウンマは正道をふみはずすことになったであろう』といった」